2人が本棚に入れています
本棚に追加
■扉の勇者と最後の扉
取り出した伝説のアイテム、『マスターキー』を掌で転がし、ゆっくりと扉のレリーフをなぞる。
どんな扉も開け放題。複雑な作りだろうが、魔法がかかっていようが関係ない。
強面扉もツンツン扉も、いい子ちゃんに大変身の、まさに勇者が持つにふさわしい、唯一無二のアイテムだ。それなのに。
「穴さえ、鍵穴さえあれば……!」
絶対という言葉は存在しない。
それを体現するかのように、物言わぬ扉は全く開く気配が無い。
そして何より、鍵付きの扉なら必ずあるはずの、鍵穴が見当たらないのだ。どのような形状であれ、鍵穴に差し込まなければ、マスターキーの効力は発揮されない。
「俺がやる」
小気味良い破裂音をぱんと鳴らして、重戦士が前に出てくる。
「落ち着け」
「時間がない」
こいつの武器は、黒光りする特殊合金製の大槌だ。
本気で力を溜めて振り抜けば、城や船を丸ごと粉砕できる威力を持っているが、その代償はあまりにも大きい。
隆起した筋肉により、身につけた重鎧が全て弾き飛ばされ、完全に無防備になる。そして、それだけの威力で大槌を振り抜けば、当然ながら反動も凄い。
一撃を繰り出したが最後、この男は、向こう七日間、まともに動けなくなってしまうのだ。
普段はなるべく力を入れず、リラックスした状態で最前線にどっしりと立ってもらっている。それだけで防御の要になるし、相応の威圧感を与えられるからだ。
「必ず開けてみせる、待っていてくれ」
壊すという発想自体がもっての他である上、魔王戦に臨む前から、守りの要が再起不能になる策など、打てるわけがない。
本人だってわかっているはずなのに、どの口が「俺がやる」などと言い出せるのか。
今すぐに力を抜かせないと、本当にまずい。なにしろ、先の破裂音は、やつの肩当てが早くも吹き飛んだ音だからだ。
最初のコメントを投稿しよう!