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発泡性の葡萄酒のコルクを丁寧に抜いたような、軽快な音が響く。肩当てに続いて飛んできた籠手を鞘で受け流し、勝手に解き放たれつつある男を見据える。
「いいか、城の魔物はあらかた片付けた。扉の前でランチにしてもいいくらいだぞ。時間ならあるんだ。さあ、その物騒な大槌を下ろせ」
「駄目だ」
「どうしたんだ。優しいお前が今日はやけに興奮しているじゃないか」
じっとりと、湿気を含んだ視線が投げかけられる。まさか、緊張しているのか?
「漏れる」
「は?」
「中にトイレがあるかもしれない」
魔王城に人間様用のトイレがあってたまるか。
普段なら、問答無用で鎧の隙間からくすぐってやるところだが、今はそうはいかない。
重戦士のお腹では、今まさに催し物の開催準備が着々と進められているのだ。期日がくれば、問答無用で吹き鳴らされる汚らしいファンファーレと共に、満を辞した諸々がもろもろ飛び出してくるというわけか。一体、俺は何を言っている。
「我慢できない」
中級の爆発魔法に匹敵する、腹に響く重低音とともに、重戦士の上半身が露わになった。
やってしまった。もう守りは捨てるしかない。一気果敢に攻め立て、反撃の隙を与えず、倒しきるしか道はなくなった。
「出てこい魔王! 勇者がきたぞ!」
「ちょっと。煽るのやめてよ」
「あはは、それで出てくるわけないよね?」
ヒーラーが怒りの声をあげ、じいさんが腹を抱えて笑う。重戦士も、別の意味で腹を抱えている。
仕方なかった。開かないのであれば、開けてもらうしかない。どうせ戦わなければならないのだ。奇襲のきく相手でも無いだろうし、仲間の説得もどうやら難しい。
となれば、方法はどうでも良い。扉が無傷で開くのなら、俺は床だって舐めてみせよう。
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