2 既視感

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 さりげなく見た彼の手は爪がきちんと整えられていて、指先まで綺麗だった。これは眞昼の昔からの癖で、気になる人物に会うとついつい手元を観察してしまうのだ。  それにしても、最初に感じた既視感は何だったのだろう。中学の同級生にあんなイケメンがいたら、印象に残るだろうし。けれど、瞬時に記憶から引き出した面影が目立つタイプだったのかさえ不明で曖昧だ。  眞昼はこの歳で忘れっぽい性格だから、単に忘れているだけだろうけれど。  ――あの人も、俺の顔見て特に何の反応も無かったしな……やっぱり勘違いか  あの繊細な手は、きっとひんやりしているだろうな、と勝手に想像した。  昼休みの時間帯、約六畳ほどの事務所内は蒸し風呂のようだった。ここのパソコンは型が古い上に重いから扱いづらい。けれど、帰宅後にパソコンを立ち上げる気力はないから、こうして廃棄の惣菜パンをくわえながら画面とにらめっこしている。   「マンションよりアパートが安いな……。1Kかワンルームで洗濯機置き場は欲しい……外でもいいか。あ、やっぱり一階が安いんだな。一階で木造……。お! 三万四千円か! でも築四十年は古いな……。地震が来たらぺしゃんこにならないか不安だなあ」    眞昼(まひる)の職場、「ニコニコストア」の朝は早い。午前九時の開店に合わせ、商品の品出し、陳列(ちんれつ)などのために、八時前には出勤する。  そして、帰宅は平均午後十時から十時半だ。  九時に店を出られる日もあるが、このところ立て続けにアルバイトが辞めたため、代わりに眞昼がシフト入りすることが増えた。  
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