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そういえば、と思う。
この社内の人間は、晃夜が社長の息子だと知っているのだろうか。知らされていないのか、それとも、その話題はタブーだったりするのだろうか。
でも、あれだけ顔が似てるんだから一目でバレるよなあ。川村さんに訊いてみようか……
しかし、川村はいかにも口が軽そうだ。多少親しくなったけれど、軽率に訊くのは避けたほうがよさそうだ。
――社員の辞令を扱うのは、総務か
そうだ、総務には「元兄候補」の山下がいる。何度か話したことがあるから、話しかけても不自然にはならないだろう。それとなく訊いてみることにするか。
眞昼は切りのいいところで業務を中断し、総務課へ足を運んだ。
総務課を覗いてみると、山下の丸い横顔が見えた。しかし当然、横にも後ろにも他の社員が座っている。正式に辞令が出たわけでもなく、社員の移動というシビアなことを教えてもらえるか疑問だが、眞昼はじっとしていられなかった。
――そうだ、喫煙所なら
山下は喫煙者のはずだ。以前、喫煙所で見かけたことがあった。眞昼は吸わないが、それを装えばいけるかもしれない。軽く訊き難い話題だが、とにかく山下と二人きりになれる機会を待とうと思った。そのあとは、どうとでも誤魔化せる。
「はは、俺、必死だな」
過去に、こんなに必死になったことがあっただろうか。顔も覚えていない兄が心の支えで、他はこだわりを持たず、ただ流れに身を任せてきたのに。
自分の意思で、流れを止めるのは初めてだった。
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