12 会えない日々

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「えー……社員の個人情報はさすがに僕の口からは言えないよ」 「いえ、個人情報じゃなくて、移動の話が出てるのかどうか、それだけが知りたいんです。なんとかお願いします」  自販機で購入した煙草の箱を手に、眞昼は喫煙所の端で山下と向き合っていた。 「決して口外しませんから、それだけは守りますから、教えてください」 「いや、困ったなあ」  山下の視線がチラ、と眞昼の背後に逸れた。  二人が立っている喫煙所には、他にも二、三人の喫煙者がいた。彼らを気にしているのだろう。  この喫煙所は今年の四月、社屋から屋外に移動したばかりらしい。ビルの屋上に屋根を付け、灰皿を数個設置しただけの風通しの良い場所だ。  夏は暑いし冬は寒いだろうが、喫煙するたびにこの場所で息抜きができるのだから、煙草を吸わない眞昼は少し羨ましいなと感じていた。  眞昼と山下の立っている位置から、他の喫煙者まで結構距離はある。建物は道路に面しているから静かな場所ではないし、話の内容まで聞こえるとは思えないのだが。  ほんわかした見た目に反して、山下は意外に繊細なのかもしれない。眞昼は思い切って、名前を出してみた。 「営業企画部の柊崎さんが、転勤になるかもしれないって、噂になってるんです。女子社員が大騒ぎしてましたよ」 「えっ……そ、そうなの?」  山下の太い眉毛がピク、と動いた。  ん? 反応ありだな。 「俺、入社してからずっと柊崎さんに色々教えてもらってて、すごく頼りになる先輩だから驚いたんです。教育係の柊崎さんがいなくなったら、どうしようって心細くて……」
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