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「えー……社員の個人情報はさすがに僕の口からは言えないよ」
「いえ、個人情報じゃなくて、移動の話が出てるのかどうか、それだけが知りたいんです。なんとかお願いします」
自販機で購入した煙草の箱を手に、眞昼は喫煙所の端で山下と向き合っていた。
「決して口外しませんから、それだけは守りますから、教えてください」
「いや、困ったなあ」
山下の視線がチラ、と眞昼の背後に逸れた。
二人が立っている喫煙所には、他にも二、三人の喫煙者がいた。彼らを気にしているのだろう。
この喫煙所は今年の四月、社屋から屋外に移動したばかりらしい。ビルの屋上に屋根を付け、灰皿を数個設置しただけの風通しの良い場所だ。
夏は暑いし冬は寒いだろうが、喫煙するたびにこの場所で息抜きができるのだから、煙草を吸わない眞昼は少し羨ましいなと感じていた。
眞昼と山下の立っている位置から、他の喫煙者まで結構距離はある。建物は道路に面しているから静かな場所ではないし、話の内容まで聞こえるとは思えないのだが。
ほんわかした見た目に反して、山下は意外に繊細なのかもしれない。眞昼は思い切って、名前を出してみた。
「営業企画部の柊崎さんが、転勤になるかもしれないって、噂になってるんです。女子社員が大騒ぎしてましたよ」
「えっ……そ、そうなの?」
山下の太い眉毛がピク、と動いた。
ん? 反応ありだな。
「俺、入社してからずっと柊崎さんに色々教えてもらってて、すごく頼りになる先輩だから驚いたんです。教育係の柊崎さんがいなくなったら、どうしようって心細くて……」
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