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帰り支度をしながら、眞昼は晃夜の番号を呼び出した。
五回のコール音の後、『どうした?』と、第一声が、まるで眞昼を心配するような口調だった。
「どうもしてないけど、帰ってこなかったから、忙しかったのかなと思って。――あ、もう仕事終えたのか?」
『ああ、打ち合わせは終わったんだけど、これから接待』
「わ、大変だな……お疲れ」
『まあ、俺は慣れてるからな。――保高は? 今日、特に変わったことはなかった?』
すごく優しい声が耳に届いて、目の奥がじん、とする。そんな声で話されたら、想いが溢れ出してしまいそうになる。
本当に、普段はクールなくせに、眞昼には優しいのだ。
――こんなの、好きになっちゃうよなあ……
「おまえがいないから、つまんないよ……会いたい」
ポロリと、素直な気持ちが口をついて出た。
言ってしまってから、変だったかな? やけに甘ったれた口調になったし、と焦るが、兄弟ならこれくらい許容範囲だよな、とか一人頭の中でグルグル考えた。
しかし、晃夜はツッコむどころか沈黙している。
「柊崎? ……聞いてる?」
もしや通話が途切れているのかと確認する。
『あ、ごめん……ちょっとびっくりして』
「えっ、なんでだよ」
やっぱり変なことを言ってしまったかと焦った。眞昼がぐるぐるしながらドギマギしていると、耳元に晃夜の低い声が静かに届いた。
『俺も会いたいよ。――保高に会いたい』
ひどく切ない声だった。
やめろよ、そんな声出されたら、勘違いしちゃうだろ……。
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