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ずんと重い気分で目覚めたら、携帯に表示された時刻は、いつも家を出る時間の二十分前だった。
「えっ? うそ! 目覚まし鳴らなかった?!」
常に枕元に置いている、長年愛用のデジタル時計が止まっていた。――恐らく電池切れだ。
「まじかー……って言ってる場合じゃないっ!」
携帯の充電が満タンなのを確認し、パジャマ代わりのスウェットを大急ぎで脱ぎ、シャツを肩に引っ掛けながら顔をザブザブ洗った。朝食を食べる時間はないので野菜ジュースを紙パックごと飲み干す。
「くそう……柊崎に言われた通りスマホのアラームもセットしておけば……」
人生初のスマホには慣れてきていたが、いまいち信用できなくてアラームは未だ使ったことがなかったのだ。
以前眞昼の部屋に晃夜が来たとき、ベッド脇の古い置時計を見た彼に何度か心配されたことがあった。
――それが現実になったとは……情けない
「くそっ、ギリ間に合うか?」
歯磨き後のすすぎもそこそこに、眞昼は慌てて家を飛び出した。
息を切らしながら、オフィスの自席にたどり着く。始業時間の二分前だった。
「ま、間に合った……」
座ったら安心してどっと疲れが襲ってくる。汗がなかなか引かなくてクリアファイルでパタパタ扇いでいると、隣から川村が涼しい顔で言った。
「いつも俺より早く来てるのに珍しいね、保高くん。寝坊でもした?」
「いえ……目覚ましが、電池切れで……」
まだ息が整わず、それだけ搾り出した。眞昼は視線だけ動かし、晃夜のデスクを見たがその姿は見つけられなかった。
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