12 会えない日々

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 晃夜のスケジュールボードは空欄だった。  ――朝から急な打ち合わせとかかな。でも、今はどこも担当してないって言ってたし  晃夜は新人の面倒を見るために一時的に担当を外れていた。ただ、以前担当したクライアントのアフターケアに新人を同行させたりはしていたらしい。  しかし、その新人の男性は晃夜の席の隣に座っている。その表情は、頼りになる先輩が傍にいなくて心細そうに見えた。入社した頃の気持ちを思い出し、同情心を覚えてしまう。 「ねえねえ保高くん、その目覚まし時計、壊れたんじゃない? よかったら俺、プレゼントしようか? 保高くん、ねえってば聞いてる?」  川村の声は眞昼の耳に届いていなかった。  ――柊崎、なんでいないんだよ  昨夜、今日の予定については何も聞かなかった。「会いたい」と言ってくれたから、当然会えるものと思っていたのに。 「柊埼くんなら、社長と一緒だと思うよ」  柊埼という名前に、瞬時に現実に引き戻される。心を読まれたのかと思った。 「えっ」 「予定が書いてなくて、欠勤でもなければ、大抵は社長案件なんだよ。暗黙の了解ってやつでさ」 「そうなんですか?」  なら、俺にも教えておけよ、と思ってしまう。 「社長室行ってくれば? 不在でも今日の予定くらいは教えてもらえるよ」 「あ、ありがとうございます!」  心の中で川村にシカトしてすいません、と呟きながら、眞昼は階上の社長室へ急いだ。   ――そういえば会社とかの辞令って、上の人間が出すんだよな……  眞昼は過去に社会人経験がないが、よくドラマなんかだと、人事異動は上の人間の鶴の一声で決めている。
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