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こうなったら、社長に直談判するしかない。
社長に会ったのは、真実を打ち明けられたあの日一度だけだ。だから、まだ父親という実感は持てていない。けれど、入社したばかりの眞昼が知っている上の人間といえば社長だけなのだ。
緊張で足がすくみそうになるが、時間を置くと気持ちが萎んでしまいそうだった。
「失礼します! あの、すみません。柊崎社長にお会いしたいんですが」
『役員室』と書かれた部屋のドアを開けて開口一番言った。
ヤバい、ノック忘れた、と思ったときには手前のデスクに座る美女(秘書?)にジロリと睨まれていた。
化粧が濃すぎる気がする美女は、サッと視線を上下に走らせ眞昼を見た。なんだか値踏みをされた気分だった。スーツは晃夜が選んでくれたから仕立てはいいはずだ。だが、その中身には自信がないから堂々とできない自分がいた。
「アポイントメントはとっていますか?」
冷ややかな声に、眞昼は背筋を伸ばした。
「えっ、いえ、それは……とってない、です」
「社長はお忙しいんです。出直していただけます? きちんと正規の手順を踏んでからお越しください」
「あの、でも、五分だけでもいいんで、お願いします!」
「ルールですから」
「そ、そんな……」
――まじで? 巨大な組織ならわかるけど、社員が社長に会うのにいちいちアポが必要なの? そんなカタいルールがあるの?
晃夜なら間違いなくアポ無しで(一緒に仕事しているのだから当然だけど)社長に会えるだろう。
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