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「来てくれてよかったよ、眞昼に訊きたいことがあったから。――あ、でも別に用なんかなくてもいつでも来てくれて構わないけどね」
「あ、はい」
――社長が俺に訊きたいこと? なんだろ……
社長を問い詰める気でいたのに、思いもよらず歓迎され、さっきまでの勢いがしぼんでしまっていた。社長はドアを閉め真昼をソファーに座らせると、正面ではなく隣に座った。
初めて会ったときもそうだけど、この人パーソナルスペース狭いよな。
「で、眞昼はどうして僕に会いに来てくれたの? ちゃんと理由があるんでしょ」
「はい」
やっぱり社長と二人きりは緊張する。救いなのは、社長の顔が晃夜そっくりということだった。その顔で慈愛に満ちた表情をされて、徐々に真昼の身体から力が抜けていく。
「あの、単刀直入に言います。柊埼がインドネシアへ移動になるのは本当ですか。それは、もう取り消せないんでしょうか」
まだ正式な辞令が出されていない状態で社長に訊くのは反則かもしれない。
「えっ、もう噂になってるの?」
しかし、社長の反応は意外に軽かった。
「はい……。あの、課の女子社員達から聞きました」
「あー……晃くん女子人気高いからなあ」
――やっぱりか
社長はふう、とやや大げさにため息をついた。
「あのね、そのことに関しては僕の方から真昼に訊きたかったんだよ。晃くんは何も答えてくれないから」
「えっ」
「晃くんが突然移動願い出したんだよ。僕は意味がわからなかった。眞昼を取り戻して一緒に暮らすのが晃くんの悲願だったのに」
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