136人が本棚に入れています
本棚に追加
/150ページ
「駄目なのか? ――あ、社内ではまずい、とか?」
でも、社長は秘書の女性に眞昼が晃夜の兄だとバラしていたけど。
「いや、そういうわけじゃ……」
晃夜が腕を下ろしたから、眞昼の身体は拘束から解けた。けれど、二人の間に空気さえ通るのが嫌だと感じた。息がかかるほど、晃夜の近くに居たいと、はっきりと思った。
「別にいいんだ、呼び名なんて、何でも……」
わがままを言ったつもりはなかったのに、何がいけなかったんだろう。すぐ近くにいる晃夜との間に見えない壁が出現した。
さっきは、すごく近くにいたのに。
「本当に、どうでもいいよ、そんなのは。――俺は、柊埼さえ傍にいてくれれば」
俯きがちだった晃夜が、はっと顔を上げる。
「海外になんか行くな。どこにも行くな」
「保高……」
晃夜への想いは少しも冷めていない。
「俺の傍にいるって言っただろ」
これから兄弟として一緒に過ごしたとしても、きっとこの先もこの恋心は冷めないだろう。それをいやというほど実感していた。
「おまえが傍にいないと、俺は駄目だ」
勇気を出して言ってるのに、晃夜はためらいがちに口元を歪めるだけで、何も言ってくれない。
「なあ……頼むよ柊埼」
「俺は……」
陽が落ちて気温も下がってくる。風が出てきたのか、周囲の木々の葉がざわざわと音を立て始めた。早くこの場所から立ち去れと、追い立てられているような気になってくる。
晃夜がすぐ目の前にいるのに、心が寒い。
なんでだよ、どうしてだ。
「――そんなに、俺から離れたいのか」
「えっ」
最初のコメントを投稿しよう!