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眞昼が狼狽えている間に、車はマンションの駐車場に到着した。
エンジンを切ったから、社内はシン、と静寂に包まれる。自分の心臓の音だけが、やけに大きく聞こえた。
「眞昼、降りないの?」
「えっ、あ……ああ」
慌てる眞昼に、晃夜が「ゆっくりでいいよ」と言う。
眞昼って呼ぶの渋ってたくせに、嬉しそうに呼びやがって……。
そういえばなぜ、名前で呼ぶのを嫌がったんだろう。目の前の晃夜は愛し気に「眞昼」と呼んでくれるのに。
周囲を見渡した晃夜は、すっと手を差し出した。眞昼は素直にその手を取った。
冷んやりした感触は、出逢った頃と変わらない。けれどきっと、この手が熱くなる瞬間もあるのだろう。それがどんなときなのかを知りたい。
まだ眞昼の知らない晃夜の色んな面を、これから先もずっと隣で見ていたいと思う。
自宅のある階まで向かう。エレベーターを降りれば、眞昼の部屋のドアだ。
人気の無いのをいいことに、手は繋がれたまま。
晃夜は眞昼の気持ちを大切にしてくれている。今夜二人で過ごすのか、それともそれぞれの部屋へ帰るのか。
車内での晃夜の言葉が耳に残っていた。
『俺、眞昼と二人きりになったら何もしない自信ないよ。だから、眞昼が決めて。今夜俺と過ごすのか、どうするか』
好きな相手に、感情たっぶりにそんな台詞を吐かれて、眞昼はすぐに何も応えられなかった。
泣きたいほど嬉しい。けれど、――自分に自信が持てない。
晃夜への想いは揺るぎないくせに、自分のこととなるとダメなのだ。
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