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溜まった洗濯物を一気に片づけるチャンスだからだ。
「もう九時かー……ちゃっちゃと動かないとな。……っとその前に朝飯か」
トーストとコーヒーで簡単な朝食を摂る。ただし、パン屋の食パンにドリップコーヒーではなく、職場の見切り品の食パンにインスタントコーヒーだ。人が聞いたらなんともわびしい食事のようだが、眞昼的にはこれで充分満足していた。
それでも、眞昼なりに小さなこだわりがあった。
それはどんなに簡単な食事でも、食器を使うということだった。母がそうしていたからそれに習っているだけなのだが、仕事を掛け持ちして多忙だった母が、出来合いの惣菜でも必ず皿に移していた。そして、食べる前には「いただきます」と手を合わせていた。
それはすっかり眞昼の身に付くこととなり、そうしないと気持ち悪いというか、収まりがつかないというか、気が済まないのだ。
トーストをかじりながら、買い物のリストをメモに書き出す。
南に面した居間の窓から、ふいに甲高い子供のはしゃぐ声が聞こえて眞昼は反射的に窓に顔を近づけた。
団地敷地内の芝生で、四、五歳くらいの男児がグローブを手にボールを追いかけていた。拾い上げ、思い切り腕を振りかぶって投げる。離れた場所に立っている父親らしき男性が、男児にやさしい笑顔を向け、声援を送っている。
小さな手が投げたボールは大きく弧を描き、父の立つ場所とは反対側へ落ちてしまった。
「あ――っ」と子供の声は残念そうに叫ぶが、すぐその後に男性の笑い声が続き、親子で楽しそうにキャッチボールを楽しんでいるのが見て取れる。
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