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微笑ましいやり取りをしばらく眺めていた眞昼は、目をそらし窓に背を向けた。じわじわと寂寥感が胸を占領した。
――ああ、まただ……この感じ。
ちっとも歓迎できない感情の変化をやり過ごすため、眞昼はコーヒーカップをテーブルに置き、両膝を引き寄せ両腕で抱え、目を閉じた。
幼い頃、母と二人きりになった頃からだろうか。
幸せを絵に描いたような親子や家族、特に父親と子供の微笑ましい様子を目にするのが苦手になった。自分にはないもの、もう手が届かないものを見せつけられるような気になってしまい、切なくなるのだ。
――まったく……もう成人してんだから、いい加減大人になれよな、俺……
自分の気持ちを冷静に分析できるものの、それをコントロールするのは簡単ではない。表には出さないよう振舞えても、心の奥底の感情を抑え込むのは至難の業だ。
しばらくぼんやりしていたが、気分を変えるためにコーヒーを淹れ直そうと腰を上げる。よっこらせと、とても若者とは思えないような掛け声をかけた。同時にピンポーンと、玄関のチャイムが鳴った。
「えっ……誰」
独り言ちて玄関に向かった。めんどくさいセールスだったら居留守を装うつもりで、音を立てないようにドアに近づきそっとのぞき穴に近づいた。
「あれ? えっ……なんで?」
考えるより先に勢いよくドアを開けると、そこには前日ニコニコストアの店内で会ったスーツのイケメンが、驚いた表情で立っていた。
「――いきなり開けるなんて、ずいぶん不用心なんですね」
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