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彼のことが知りたかった。本当に同級生なのか、あるいはそれを装った別人なのか。そこははっきりさせておきたかった。
「や、それは……」
微かな苛立ちから一転、その端正な顔の眉が八の字になりつつある。眞昼は続けた。
「普通で考えてもさ、名前も名乗らない相手の言うことをただ聞いて、ホイホイついていくなんておかしいだろ。そう思わない?」
もしかしてこいつ、母ちゃんの彼氏の関係者、とかなのか? 一瞬そう思うが、その相手の名前を知らないのだから、確かめようがない。
「母ちゃんにメールしよっかな」
「う……」
彼は長めに目をつむった後ぱちっと開き、なにか考えているようだった。困っている、というよりは難しい問題を解いているような表情に見える。
眞昼は首を傾げたくなった。彼がなぜ、名前を教えることにここまで躊躇しているのかがわからなかった。そんなにも教えたくない理由っていったいなんだ。ここまでじらされると意地でも知りたくなるというものだろう。
それに、たとえ彼が同級生ではなかったとしても、目の前の彼は人を騙すような人間には思えなかった。
しかし待てよ、と思う。確かに眞昼は貧困層だし貯金もないし、だまし取られる物はない。けれど今の世の中、それで安心というわけではない。
現代は物騒で世知辛い世の中だ。奪われる金はなくても危険な仕事の手伝いをさせられる場合だってある。例えば詐欺の受け子をやらされたり、電話口で「母ちゃんオレオレ!」とか言わされたり、あるいは……もしかしなくても臓器売買とか。
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