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眞昼に貯金はないが、健康体で持病はない。風邪は滅多にひかないしアレルギーも持っていない。自慢できることといったらそのくらいだから、誰に差し出しでも恥ずかしくない臓器だと自信を持って言える。いや、誰にもあげたくはないけれど。
そんなことを考えていたら不安になってきた。俺って騙されやすい、いいカモなんじゃ……。
「いやだ! 臓器は勘弁して!」
「は? ……臓器?」
眞昼はドアを閉めようと強引にドアノブを引っ張るが、男の足が滑り込んできたためガンッと派手な音が響いた。
「おい、何言ってんだよ。なんか誤解してるようだけど。おまえの臓器もらっても困る」
「おまえ」と呼ばれても不快感はなかった。寧ろ……
――怪しいのに、なんだろ……もっとこいつと話したい気がする
自分のそんな感情が不思議で、眞昼はドアを引っ張る力を緩めた。
「……俺の臓器を売りさばくんじゃないの?」
「誰がそんなことするかよ。そもそも、どこで買い取ってくれるんだよ」
「いや、知らないけど……」
しばらく沈黙が続いた。
「あんたが俺に名前を教えたくない理由は何?」
彼はわざとらしくポカン顔を作り小首を傾げた。眞昼は「何をとぼけてんだよ!」叫び、彼の鼻先に指を突き付けた。
しばらく見つめ合う格好になってしまうが、眞昼はかまわず彼の目をじっと睨み続けた。
奇妙な時間が流れるうち、先に降参したのは眞昼だった。
「なあ、名前くらい教えてくれたっていいだろ。なんでだよ」
彼は口の中でモゴモゴ言った。途端に、スマートな対応を貫いていた人物の皮が剥がれる。
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