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「コレは先週納車されたばかりのピカピカの新車。これでおまえを迎えに行けって言われた」
「なんで……」
話だけ聞いていると、眞昼に対してまるでVIP対応ではないか。それが不思議で、思わずハンドルを握る男の横顔を見た。
新車の社用者で眞昼を迎えに行き、その母の家に連れて行く。――それが、社長の指示。まさか、社長って……。
推理しようと考えている内容とは逆に、眞昼の脳裏には中学校の校庭や校舎がうっすらと浮かび上がっていた。
「なあ、あんたの名前って」
「もうすぐ付くぞ。ほら、あのマンションだ」
フロントガラスの向こうに、いかにも高級そうな駅前の新しいマンションが見えた。
「えっ、ここ? こんな近くなのかよ! つーか、隣の駅じゃん!」
「時間がないからさっさと降りて。この後予定がつまってるんだ、急いで」
「えっ、予定って……俺の都合は無視かよ」
マンションの敷地内の駐車場に進入し停車すると、彼はさっさと運転席から降りてしまった。ブツブツいいながら、眞昼も慌てて降り、彼の背中を追いかけた。
「ちょっと、待ってよ、秘書くん!」
「俺は秘書じゃない」
身長は同じくらいなのに、なかなか追いつけない。コンパスの違いだろうか。いや、長さはそんなに変わらないか。
「だって、そっちが名前教えてくれないからしょうがないだろ。それとも名無しの権兵衛の方がいいのかよ」
「べつに、それでもいいけど」
エレベーター前で立ち止まり、彼の指は十階を押した。
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