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「え~……」
ぷうと頬を膨らませる眞昼に向かって、彼は人差し指を突き出した。
「自力で思い出せ」
そこまでかよ! と思いつつ、並んでエレベーターを待った。すぐに到着した扉の中に二人で乗り込む。ボタンを押す彼の手は、男の手にしておくのはもったいないほどの綺麗な手だな、と思った。
「なあ、やっぱ同級生なんだろ、中学の」
彼はチラ、と眞昼を見るが何も答えなかった。二人を乗せた鉄の箱は音もなく十階で停止する。
「おお、このエレベーターも超最新式って感じだなー」
スッとドアが左右に開くと、彼は停止ボタンを押したまま言った。
「降りて真っすぐ進んだ正面、1001号室に君のお母さんはいる。俺は、一階のロビーで待ってるから」
「えっ、俺一人で行くの」
彼の表情が驚いていた。
「――自分の母親に会うのに、付き添いが必要なのか?」
「あっ、いや……」
――そういうわけじゃないけどさ、……いや、だよな。なんでだよ、俺
確かにそうだ。生き別れの母と数十年ぶりに再会するわけでもなく、数日ぶりなのだから。
でも、来たこともない建物の中が、やけに無機質に感じられたのだ。ここに自分の母がいるのに(まだ事実かわからないけど)眞昼は当然、彼も一緒に来てくれると、疑わなかった。
「あー、じゃあ、行って、くるよ」
「ああ」
彼が乗り込んだエレベーターを、数秒見つめた。
「おい名前! やっぱ教えて!」
眞昼の声が聞こえたはずなのに、エレベーターのドアは閉じようとしていた。
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