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4 母と再会
一週間ぶりに自分の母親に会うというのに、何の感情も湧いてこなかった。そもそも、昨日初めて逢った男に言われるまま、のこのことここまできたのだ。今更なのだが、つくづく自分は流されるのが得意なのだと実感した。
そして、彼にも――柊崎にも、一緒に来て欲しいようなおかしな気分になっている。
「後で、質問攻めにしてやるぞ、柊崎」
眞昼は深呼吸すると通路をまっすぐ進み、1001号室に向かった。
「やっと来たわね、遅いじゃないの」
開口一番、母は言った。
「……は? 最初のセリフがそれかよ。住所聞いてなかったんだから仕方ないだろ」
「冷蔵庫にメモ貼っておいたわよ! やだ、あんた見てなかったの?」
呆れ顔の、一週間ぶりに会った母は、見違えるように綺麗になっていた。元々実年齢より若く見られるのだが、服装がフェミニンな雰囲気で、いかにも「よそ行き」な感じだ。
母は二十代で離婚してから、ずっと働きづめだった。
ダブルワークの期間も長く、化粧っ気もない頃の母の爪は常に短く切り揃えられていた。けれど目前の母の手は、かつて目にしたことがないほど長く伸ばされ整えられた爪に、綺麗にネイルが施されている。
「スカート穿いてる! Gパンしか見たことなかったのに!」
「うるさいわね」
「てか、ここ超広いね、何帖あるの」
「三十帖くらいじゃない」
こともなげに母は言った。
「金持ちなんだね――彼氏」
「彼氏って……息子に言われるのって嫌な感じね」
そりゃ、俺だって言いたかないけど。
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