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「それより眞昼」
母は、二十人くらい座れそうな革張りのソファーに足を組んで座った。
「晃夜くんに会ったんでしょ、どうだった? 彼と会って」
「え、どうって……。あいつは中学の同級生で、ついさっき名前思い出したくらいだし」
母はしばらく眞昼をじっと見つめていたが、ふっと息を吐いた。
「晃夜くんはね、私の彼の会社の社員なの」
「は? え?」
柊崎は、母の恋人の同僚……?
――ん? なんだその奇妙な関係は。それであいつが俺を迎えに? 意味がわからない
母は立ち上がると、天井まで伸びた大きい窓に近づいた。
「ねえ見て。ここから眺める景色、夜景も綺麗だし最高なのよ。このマンションを見てもわかるように、私の恋人は高級マンションの家賃を軽く払えるほど稼いでる人なの。眞昼が四歳の頃から女手ひとつで頑張って、必死だったから、あんたと二人、寝起きができる住まいがあれば良かったし、どんな部屋に住みたいかなんて考えたこともなかったけど。でも、今はすごく幸せ」
ゆっくり振り返った母は、知らない女の人に見えた。
「眞昼が自分の将来をどう考えているかわからないけど、チャンスは逃しちゃいけないわ」
「チャンス?」
「あんたが今の仕事に満足してるのは知ってるけど、選択肢が増えてもいいと思うの。とりあえず三ヶ月、晃夜くんの下で働いてみなさい。実際経験してみて決めるといいわ。会社に入るのか、今後も最低賃金で働き続けるのか」
「柊崎の下で働く……」
再会したばかりの元同級生の下で働く、と考えると複雑な気もするが、大人になった晃夜は、格好よくスーツを着こなしていて、正直、憧れに近い気持ちを感じた。
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