1 初めての一人暮らし

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 久しぶりの親子の団らんも悪くないよなあとのんきに考えて、こそばゆいような気持になっていた。  なのに、まさかあんな話を聞かされるとは予想できなかった。  実年齢より十以上若く見える母の、恋人のような存在は薄々気付いていた。携帯メールの着信が増え、感情をあまり表に出さない母が、珍しく口元を緩ませて画面を見つめていた。その表情は妙に嬉しそうで、仕事関係の内容ではないと直感したのだ。    母がずっと働き詰めだったこともあり、すれ違いも多く、母子家庭のわりにはドライな親子関係だった。会話は、日々の暮らしの中で困らない程度だった。眞昼が高校生になってアルバイトを始めた頃からは、ますます互いに干渉しなくなっていたが、同じ屋根の下で暮らしていれば、嫌でも母の変化はわかる。    そこまで恋人との関係が進展しているなんて、予想できなかったけれど。  いくらサバサバした親子関係でも、二人きりの家族なんだから、そんな人生を左右するような大事な案件は早めに告げて欲しかった。そりゃ、眞昼は先月二十一歳を迎えた成人男子だから、母親が恋しくて駄々をこねたりはしないし、するつもりもないけれど。 「昔から、俺に相談もなく勝手にいろいろ決める性格だったけど、ここまでとは思いませんでしたよ」    店長は、伝票をめくっていた手を止め、腕を組んだ。 「そうねえ、まあ、普通の男の子だったら手放しで喜ぶところよねえ。ほら、親の目を気にすることなくいつでも彼女呼べるし、なにより自由だし。ああ、自由ならアタシも欲しいわ~」
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