4 母と再会

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 でもまだこうしていたい気もする。このままこの肩にもたれて。  なのに、晃夜は「さあ、行くぞ」と、力強く眞昼の腕を取って立ち上がらせると、自分と眞昼のズボンをパンパンはたいた。そして眞昼の手首をぐいぐい引っ張って歩き出した。 「ちょっ、おい、待て! 足がもつれる!」  摑まれた手首は、やはりひんやりしていた。 「柊崎って世話好きだったんだな」 「勝手に決め付けるなよ、別に好きで世話焼いてるわけじゃない」 「じゃあ、向いてるよ」 「別に、嬉しくない」  駐車場へ向かいながら、くだけた会話をするのが楽しかった。職場以外でこんな風に、誰かと軽口を交わすのは久しぶりだった。元同級生だからなのか、二人の距離はあっという間に縮まった気がする。但し、現在の関係は特殊だけれど。 「そうだ。保高、スーツ持ってる? 靴は?」  プリウスに乗り込み、運転席でシートベルトを装着しながら、晃夜が訊いてきた。眞昼は慣れないベルトと格闘しながら答えた。 「えっと、成人式に着たやつなら持ってるよ。靴は、黒のローファーしかない」  晃夜の手が伸びて、差込部分を押さえてくれた。カチッとベルト装着の後、車がゆっくり動き出す。フロントガラス越しの空は曇りだった。 「とりあえず、初日はそれでオッケーだな。シャツとネクタイの替えは?」 「……ない」  スーツは成人式に一度着たきりだ。洋服ダンスの奥にかけっぱなしだから、カビとか生えていなければいいのだが。
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