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――気付いてなかっただけで、俺ってもしかして、「隠れおしゃべり」だったのかな
少し間を置いてから返事がくる。
「なんで、彼女がいる前提なんだよ」
「え、いないの? その顔で」
「顔って……別に顔は関係ないだろ」
「イケメンの自覚アリかよ。選び放題ってことか~。にくいねえ」
晃夜はちらりと、呆れた視線を寄越した。
「そういうお前は、どうなんだよ」
「えっ俺? 俺の理想は年下よりは年上で、可愛い系より綺麗系かな」
「やっぱりいないのか」
晃夜が勝ち誇ったように、ニヤリと笑んだ。
「やっぱりって何だよ、今はいないけど、これから探すんだよ、出逢いはいくらでも転がってるもんだろ」
信号待ちで停止したタイミングで、晃夜がじっと見つめてくる。
「――何?」
「いや、確かに出逢いはあるよな。新しい職場で」
ドッと背中に汗が噴出した。
「きっ、緊張させんなよ!」
「未来の彼女との出逢いだと思えば、楽しみだろ」
「う……」
ムキになって言ってみたものの、本音はどうでもよかった。
店長やパートのおばちゃんや、アルバイトの女の子達に「一見地味だけどよく見ると可愛い顔」と、揃って評される容姿だから、まったくモテないわけではない。実際、告白されて付き合うことが多かった。
けれど、自分が求めているのは、幼い頃から心の支えだった、あの温かい手の持ち主なのだ。歴代の彼女達は、どうしたってあの手の代わりにはなれなかった。それを思い知ったからこそ、自分から積極的に恋人をつくる気にはなれないのだ。
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