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眞昼は、その手の持ち主は四歳で生き別れになった兄だとずっと信じている。
母が全て処分したのか、離婚時に持ち出さなかったのかは不明だが、幼い頃の眞昼の写真は極端に少ないし、兄らしき人物の写真など一枚もない。
しかし、血を分けた兄は存在しているはずだ。疑いようのない事実だと眞昼は信じていた。
紳士服専門店らしき看板を掲げたビルの駐車場に、車が停車する。
「着いたぞ」
車内から見上げると、眞昼でも知っているチェーン店のアオ◯とか青○とは違い、こぢんまりした雰囲気の店だった。
「ここでスーツを?」
「そう」
シートベルトを外しながら、眞昼は晃夜の手を見た。
「柊崎って、手が綺麗だよな」
「手?」
いきなり変なこと言ったかなと焦り、「あ、いや」と眞昼は慌てて言葉を足した。
「昔から俺、人の手を観察するのが癖でさ。まあ、変な癖なんだけど」
「そうか? べつに変だとは思わないけど」
顔を上げると、本心からそう思ってるのか、晃夜の顔はごく自然だった。それに救われた気持ちになった気がして、眞昼の口から更にするりと本音がこぼれた。
「変な感じだけどさ、俺達、もしかしたら義理の兄弟になるってことだよな」
「まあな、可能性は高いんじゃないか。おまえをうちの会社に入社させるくらいだから」
車を降り、晃夜は言った。眞昼も車外に出た。
「そう、だよな」
しかも、恋人の息子の面倒を我が子にさせるくらいなのだから、眞昼の母と晃夜の父親は、具体的な話し合いをしているのかもしれない。
「なんか、嬉しい」
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