5 寝耳に水

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 助手席のドアを閉めて、眞昼は車越しに晃夜に笑いかけた。 「柊崎は自分の仕事もあるのに、俺のお守りを押し付けられて大変だろうけどさ、俺は単純に、柊崎と兄弟になれるのは、嬉しいよ」 「う、嬉しいとか、おまえ……」  視線を逸らした晃夜の頬が、ほんのり赤く見えた。今日一日、自分よりも遙かに大人びた印象の晃夜の、初々しい様子を目の当たりにする。 「なんだよ、照れんなよー、こっちまでうつるじゃん」 「別に照れてなんか……アホか」  スタスタと、店の入口に向かう晃夜の耳が赤いのは、何より照れてる証拠だった。  ――結構可愛いところもあるんだな  こそばゆい心地で、眞昼は晃夜に続いて店内に入った。  眞昼の一張羅のスーツはブラックだから、他の色で作ることにした。自分で買うなら、迷わず吊るしのセール品にするのだが、今回は社長からのプレゼントらしいし、「スーツは会社の顔だから、なるべくいいものを身につける」のが社訓だとか。  ――俺、ブランドとかまったくわかんないけど大丈夫かな……  知識ゼロの眞昼が、ハイブランドのスーツを着る同僚達とうまくやっていけるのか不安になってくる。店主らしいロマンスグレーの男性がにこやかに晃夜と眞昼をむかい入れた。  晃夜は常連なのか、「いらっしゃいませ柊崎様」と言われている。なんかすごいなと思った。 「こちらの彼の採寸をお願いします。仕事用に数着欲しいので」 「かしこまりました。――どうぞこちらへ」  奥に案内された眞昼は、きっちり時間をかけて採寸された。ほぼ晃夜の指示で、眞昼の体に合ったスーツを二着注文する。
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