5 寝耳に水

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 他にも淡いストライプや無地のワイシャツ数枚、ネクタイも四、五本。そして靴を二足。スーツは値段が不明だが、靴は一足三万円代だった。(それでも店内で一番安いらしいが)合計金額を知るのが怖い。 「身体のサイズ維持しろよ。せっかくのスーツが着られなくなるからな」 「もちろん! 気をつけるよ」  とはいっても、眞昼は中学から体重はほとんど変わっていない。 「まあ、おまえの場合はもう少し肉がついたほうがいいかもしれないけどな」  晃夜の視線が、品定めするように眞昼の身体をじっと見つめた。それが流し目みたいに感じてドキッとする。 「なんかいいのかな、こんなに買ってもらっちゃって」 「言っただろ。スーツは会社の顔だって。それに、身だしなみをきちんとしないと、取引先になめられるから、当然だ」 「なめられる……」  いったい自分はどんな仕事をさせられるのだろう。静かにオロオロしていると、晃夜と顔見知りらしい店員が、にこやかに言った。 「スラックスの裾直しがほとんど必要ないなんて、日本人離れした、理想的な体型ですね。柊崎様もそうだと記憶しておりますが、お二人は体型がとても似ていらっしゃいますよ」  五十代とおぼしき店員は、感心するように言った。 「へえ……。俺と柊崎、体型似てるんだ」  そういえば身長も同じくらいだ。ただ、晃夜は姿勢がいいから長身に見えるが、並んだ時の目線は同じくらいだった。返事がないなと晃夜を見ると、彼は淡々とクレジットカードを取り出し、会計を済ませていた。
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