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ワイシャツやネクタイ、靴の入った紙袋を抱え、二人は車に乗り込んだ。
晃夜には、さきほどの会話があの距離で聞こえなかったのだろうか。なんとなく訊けなくて、眞昼はおとなしくシートベルトを装着した。
まだ昼食を摂っていなかったため、途中で弁当も買う。豚の生姜焼き弁当の匂いが充満した車内で、晃夜がぽつりと言った。
「俺は、お前のお守りを押し付けられたなんて、思ってないからな」
「――柊崎」
前方に視線を向けたまま、ハンドルを握る晃夜の横顔を見る。五、六年ぶりの再会にもかかわらず、すっかり打ち解けた空気になっていた。晃夜と一緒にいれば、もっと中学時代の晃夜を思い出せるかもしれない。
眞昼がしんみり思い巡らしていると、一転、晃夜が邪悪な笑みを浮かべた。
「全部仕事で返してもらうつもりでいるから、全力で俺に着いてこいよ。覚悟しとけ」
「え、ええ~」
情けない声を出すと、晃夜がぷっと吹き出した。つられて眞昼も笑う。車内は二人分の笑い声に包まれた。
年季の入った都営団地の階段を上がりはじめた時、ポケットの携帯が鳴った。母からのメールだ。タイトルは『言い忘れたけど』
「なんだよ、まだなんかあるのか」
パカッと携帯を開く。
<あんたの兄弟も同じ会社で働いてるから、会いたければ自力で探しなさい>
眞昼は、短い文面を馬鹿みたいに何度も読み返した。
「どうした?」
先に階段を昇る晃夜が振り返った。
<あんたの兄弟も同じ会社で>
――あんたの兄弟も――
「……俺の――兄ちゃんが……会社にいるって」
眞昼は今にも膝から崩れ落ちそうになった。
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