5 寝耳に水

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「マジで何も聞かされてなかったのか」 「うん……」  やっと搾り出した声は、大量のため息と共に出た。団地の六畳間、テイクアウトの生姜焼き弁当と豚汁をローテーブルに広げ、晃夜と向かい合い座っていた。  眞昼は座っているのがやっとの状態だった。 「よかったじゃないか、うまくすれば近いうち、感動の再会が実現するかもしれないぞ」  肉を豪快に口に運びながら晃夜は言った。 「とにかく食え。豚汁が冷める」  空腹なのは自覚していても、気持ちが受け付けない。眞昼はぼんやり晃夜を見た。 「母ちゃんはいつもああなんだ。肝心なことや、俺の知りたいことは何にも教えてくれない。俺がどんなに兄ちゃんに逢いたがってるか誰より知ってるはずなのに、こんなのってあんまりだ。酷すぎる……」  晃夜は食べるのが早いのか、あっという間に弁当と豚汁を平らげ、冷蔵庫から勝手に出した麦茶を飲んでいる。 「柊崎は、俺んちの事情知ってんだろ、でなきゃ母ちゃんの居場所知るわけないもんな」 「まあ、ざっくりとだけどな」  壁が色あせて、畳もあちこち傷んでいるこの部屋と、仕立てのいいスーツ姿で胡坐をかいている晃夜はミスマッチだなと思いつつ、眞昼は愚痴りたい気分だった。 「俺が四歳のとき、離婚したらしいんだけど、両親がいない母ちゃんは、親戚とか頼る先もなくて、一人で俺を育てるのホントに苦労したと思う。ただ、俺は人見知りしない子供だったから、あちこち預けられても平気だった。保育ママっていう、普通の家に預けられることが一番多くてさ、一時(いっとき)、何日も迎えに来ない日があったりしたっけ。母ちゃんはクールだから、久しぶりの親子対面でも俺のこと抱き締めたりしないんだけど、保育ママがハグ好きな人で、嬉しいのに恥ずかしくて、慣れるのに時間かかった」
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