5 寝耳に水

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 晃夜は相づちも打たずに聞いている。 「俺、ホントは母ちゃんに甘えるの我慢してた。でも、そんなとき兄ちゃんのことをいつも思い出すと、耐えられた。不思議と安心するっていうか。手を……」 「手?」  眞昼は頷く。 「兄ちゃんのイメージって、手なんだ。温かい手。いつも、ギュって握ってくれてた。四歳までしか一緒にいられなかったけど、確かな記憶だって、信じてるんだ。変だよな、俺、ほかの事は忘れっぽいくせにさ」  晃夜がじっと眞昼を見つめていた。真剣な目に見えて、どきりとする。 「そんなに、会いたかったのか」  改めて訊かれて、体が震えた。 「会いたかったよ! ずっとずっと、会いたくて。写真が一枚も残ってないから、顔も覚えてないけど」 「写真持ってないのか? 本当に?」 「見たことないし。母ちゃんが隠してるのかもって、何度か探したことあるけど、見つけられなかった」  さすがに、晃夜も唖然とした表情になった。 「時代錯誤な、変な話だろ」  こんな話、誰にも打ち明けたことはなかった。ある程度の事情を知る晃夜だからこそ、話せたのかもしれない。  ――なんだろう、不思議だな、こいつ  自分が忘れているだけで、中学時代の晃夜との関わりは、もっと濃いものだったのかもしれない。少しでも思い出せていけたらいいと思った。  ふいに晃夜が立ち上がり、眞昼のすぐ隣に座った。手をギュッと握られる。 「な、何」 「お前が四歳なら、その兄貴も子供だよな」 「う、うん」
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