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晃夜は相づちも打たずに聞いている。
「俺、ホントは母ちゃんに甘えるの我慢してた。でも、そんなとき兄ちゃんのことをいつも思い出すと、耐えられた。不思議と安心するっていうか。手を……」
「手?」
眞昼は頷く。
「兄ちゃんのイメージって、手なんだ。温かい手。いつも、ギュって握ってくれてた。四歳までしか一緒にいられなかったけど、確かな記憶だって、信じてるんだ。変だよな、俺、ほかの事は忘れっぽいくせにさ」
晃夜がじっと眞昼を見つめていた。真剣な目に見えて、どきりとする。
「そんなに、会いたかったのか」
改めて訊かれて、体が震えた。
「会いたかったよ! ずっとずっと、会いたくて。写真が一枚も残ってないから、顔も覚えてないけど」
「写真持ってないのか? 本当に?」
「見たことないし。母ちゃんが隠してるのかもって、何度か探したことあるけど、見つけられなかった」
さすがに、晃夜も唖然とした表情になった。
「時代錯誤な、変な話だろ」
こんな話、誰にも打ち明けたことはなかった。ある程度の事情を知る晃夜だからこそ、話せたのかもしれない。
――なんだろう、不思議だな、こいつ
自分が忘れているだけで、中学時代の晃夜との関わりは、もっと濃いものだったのかもしれない。少しでも思い出せていけたらいいと思った。
ふいに晃夜が立ち上がり、眞昼のすぐ隣に座った。手をギュッと握られる。
「な、何」
「お前が四歳なら、その兄貴も子供だよな」
「う、うん」
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