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6 新生活
翌日、約束の時間午前八時に晃夜が迎えに来た。
眞昼は自前の黒スーツに身を包み、晃夜を出迎えた。新調したスーツ二着は後日届けてくれるとのことなので、他は新しいシャツとネクタイ、ピカピカの靴だ。(ネクタイは後で晃夜に直されたが)
ニコニコストアには、夕べのうちに電話を入れていた。十代から四年間勤めた場所をこんな風に突然去るのは淋しくて、できれば直接会って今まで世話になった感謝の気持ちを伝えたかったのだが、
『今は少しでも早く新しい職場に慣れた方がいいから、時間がある時にいつでも顔を出してくれればいいよ。それにしても、いいところへ就職できて良かったね。保高くんにはいつも無理言ってシフト入ってもらってたから、助かってたよ、本当にありがとう』
店長とは対照的に風に吹かれたら倒れそうな体型のオーナーは、電話口で穏やかに言った。
『ほんとにねえ…急だからびっくりしたけど、アタシはいつでも保高くんの見方だから、何か困ったことがあったらいつでも来てね』
店長はいつも通り、本当に言葉に甘えてしまいそうだ。
オーナーと店長夫妻の子供達は眞昼より年上で既に自立しているから、二人は眞昼を息子のように可愛がってくれていたのだ。
「保高、何ぽけっとしてんだよ、貴重品類はまとめてきたか?」
思い出してしんみりしていた耳に、晃夜の澄んだ声が届き、現実に引き戻される。
「あ、うん。ここに入れてきた」
眞昼はボストンバッグを後ろの座席に置いた。
「少ないな、それだけ?」
晃夜が振り返って言う。
「え、そう? これでも、下着とか貴重品とか入ってるし」
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