6 新生活

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「下着? お前、そんなにボロいの穿いてるのかよ」 「そんなことないよ、だって、見られるの恥ずかしいじゃん」  晃夜はにやりと笑う。 「スーツと一緒に下着類も買えばよかったな、気が利かなくて悪かった」 「いいよ別に!」  初出勤の今日、同時に眞昼は引越しをする。これも晃夜が手配した「お任せらくちんパック」で、荷物の梱包から配置すべて、眞昼不在のまま業者がやってくれる。(店長が知ったら嫉妬されそうだ)  母に会いに行った日の別れ際、晃夜から「明日はおまえの引越しだから」と告げられたときは驚いた。母といい晃夜といい、大事な事を後回しにするのは何故なのだ。しかしどちらにせよ、自分は団地から退去を迫られている身だから迷っている場合ではないのだけれど。  場所は母のマンションまで五百メートルの距離で、駅からは離れるが、新しい職場までバス通勤が可能だ。こちらもマンションで単身者向けの部屋。    社長の知人の持ち物らしく、通常の家賃七万のところを、五万にしてくれるという。当然、家賃は自分で支払うのだからありがたい。しかも最初の一ヶ月は更に値引いて四万でいいとのことだった。 「保高、仕事帰りにうっかり団地に帰るなよ。ま、鍵の事があるから俺が一緒に行くけど」 「悪いな、何から何まで世話になっちゃって」  晃夜はハンドルを握りながら、ちらりと視線を寄越した。 「まあ、社長から言われてるし、仕事の範囲だと思えばなんてことない。不動産の契約は初めてじゃないから慣れてるんだ。そもそも、お前は初めて行くんだし、誰かが案内しないとしょうがないだろ」
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