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「そうだけどさ」
眞昼にとって、昨日は刺激的な一日だった。中学の同級生に連れられて母の新居に行った。母の暮らす相手は金持ちの社長で、いきなりそこで働くことになり、しかもその職場には再会を熱望していた兄がいると告げられ……。
脳みその許容範囲を軽く超えていた。疲れすぎて一晩ぐっすり眠り、嘘みたいにすっきり迎えた朝。晃夜の立場について、ふと考えてしまった。「俺がついてるから大丈夫だ」と言ってくれたし、兄のことで動揺したときは、手を握ってハグしてくれた。
一日一緒にいて、晃夜がいいやつだってよくわかった。おそらく仕事もできるのに違いない。向上心も人一倍ありそうだし。
「保高の通勤だけど、慣れるまでは面倒みるように言われてる。送り迎えしてやるから、安心しろ」
眞昼は申し訳なくて、切ないようななんともいえない気持ちになった。
「イケメンで爽やかで、仕事ができて面倒見もいいなんて、ほんと、ずるいよ柊崎……」
「は? なに言ってんだ」
呆れた表情をされても、もうどうしても優しく思えてしまうのだ。眞昼の出現で、晃夜の置かれた立場は大きく変わったことだろう。約束されていた将来。未来の社長の席に座るはずだった晃夜。
眞昼が現れなければ、母が晃夜の父親の恋人にならなければ、その輝かしい未来は現実になっただろうに。
晃夜の真っすぐに伸びた一本のレールに、邪魔な分岐点を作ったのは眞昼にほかならない。
「柊崎、俺……がんばるから。お前の足を引っ張らないように、がんばる」
「ああ、まあ、がんばれ」
なんとしても認めてもらいたい。晃夜にがっかりされたくない。再会できてよかったと、思って欲しい。眞昼は、新しい職場に向かう車内で、密かに新たな決意を胸に抱いた。
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