6 新生活

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「ほら、たとえばクライアントが色で迷ったとき、あなたなら何色を選ぶか、とか訊かれることもあるってこと。実際過去に、迷いすぎてこっちに決めさせる人もいたからな」 「へえ。でも、その気持ちわかるなあ。色見本の種類が多すぎて、どの色を選べばいいのか混乱しそうだもんな」 「だろ」  例えば青系統の色だけでも何十種類とある。予算によって制限があるが、沢山ある中から一つを選ぶのは気が遠くなる作業だ。  オフィスに戻ると、営業は皆出払っていて、その一帯がぽっかり空いていた。 「柊崎さん、保高さん、おかえりなさい」  内勤業務の女性に声をかけられ、眞昼は顔を赤らめながら会釈した。前の職場にも女性はいたのだが、五十代の店長と、他は高校生のアルバイトの女の子だけだった。しっかりメイクを施した大人の女性との接触は慣れなくて、どうしても緊張してしまう。  ふいに、前を歩く晃夜が顔を寄せてきた。 「保高くん可愛い~、純情~、とか思われてるぞ、お前」 「なっ……!」  耳元でくすぐるように囁かれ、眞昼はますます赤くなる。晃夜は余裕たっぷりの笑みを浮かべ「三番の会議室が空いてるから先に入って準備してろよ」と、オフィスを出て行った。  眞昼が入社して、二ヶ月が過ぎていた。  眞昼の面倒も見つつ、バリバリ仕事をこなしている晃夜をずっと傍で見てきた。そんな晃夜に対する羨望の思いと、自分自身への情けない気持ち。晃夜が傍にいないと、途端にそれらの感情に気持ちを乱されてしまう。
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