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――情けないよなあ、俺
こんな自分だが、晃夜と一緒に働くうち、少しは成長してほしいものだ。
「保高くん、おかえり~」
業務課の主任、川村に声をかけられた。
「ただいま戻りました」
柔和な顔立ちの川村はにっこりほほ笑む。おそらく、さほど歳は変わらないはずだ。
「どお、もう仕事慣れた?」
「いえそんな、まだまだです。柊崎……さんがいないと、何にもできないヒヨコです」
「ははっ、柊崎くんは親鳥かい」
川村の手が、ポンと眞昼の肩に触れる。その手は大きめだ。彼に手を握られたら、眞昼の手はすっぽり納まるだろう。
眞昼は初出社の日からずっと、若い男性社員数人をチェックしてきた。この中に眞昼と血を分けた兄弟がいると思ったら矢も楯もたまらず、無意識にギラギラした視線で周囲を観察してしまったようで、「目が血走ってるぞ」と晃夜から注意を受けたほどだ。
晃夜の指示通り、眞昼は三番会議室に入り、資料を広げた。クライアントとの話し合いの中で、変更や訂正事項がいくつかあり、眞昼は自分が赤ペンで記入した部分の確認をした。
晃夜がタブレットとファイルを脇に抱え、会議室へ入ってくる。両手には湯気の立つ紙コップも二つ持っていた。眞昼はそれを先に受け取った。
「保高って、彼女いたことあるんだろ? ひょっとして、彼女いない暦二十一年だった?」
「い、いたよ彼女くらい。最近だと一年前まで。――それが何か?」
嫌な予感がして、警戒心露に訊き返した。晃夜は長テーブルにもたれてコーヒーを啜った。
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