6 新生活

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 入社から一ヶ月は精神的、体力的にきつかった。晃夜は外回りの仕事が多く、眞昼には未知の世界だった。  けれど、晃夜が常に傍にいてくれたから心強かったし、彼の仕事を近くで見るのは何より勉強になった。  晃夜の説明はとてもわかりやすく、未経験の眞昼でも、こんな風にバリバリ働いてみたいと思わせてくれた。なにより、晃夜と一緒にいるのが楽しかった。  晃夜にとって、自分は出世を脅かす存在だということを忘れがちになってしまう。晃夜の立場を考えると、そのたびに複雑な感情が胸を占領していた。  けれど、晃夜はずっと嫌な顔一つせず、眞昼の仕事やそれ以外のサポートをしてくれるから、つい甘えてしまっている。  眞昼は、真剣に資料に目を通す晃夜を盗み見た。  俺は、柊崎にとって邪魔な存在だけど、でも、少しでもこいつのために役に立ちたい。 「柊崎、俺、頑張るから」  顔を上げずにそれだけ伝えた。 「――ああ、頑張れ」  晃夜が、フッと笑った気配がした。      現時点で、『生き別れの兄候補』は二人いる。  一人目は業務課の川村主任。二人目は、経理課の山下だ。川村主任とは、ほぼ毎日顔を合わせるし、言葉も交わしている。しかし山下は、初日の挨拶で経理課を訪れたときに一度言葉を交わしたのと、何度か社内の廊下ですれ違ったときに会釈する程度だった。  候補の理由は、年齢が一~二歳上だということだけ。入社したばかりの頃は、早く兄を見つけたくて毎日そればかり考えていた眞昼だが、晃夜と一緒にいるうち、同じ建物にいるのはわかっているんだから焦ってもしょうがない、という気持ちになれていた。
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