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晃夜の後ろを、緊張した面持ちの若い男性が歩いていた。数ヶ月前の自分を思い出すような光景だった。
急きょ、晃夜が世話することになった「社員候補」が彼なのだろう。晃夜が何か話しかけ、彼が真剣な表情で頷く。そのやり取りの合間に、笑い合っているのが見えた。相手をリラックスさせるため、何か冗談でも言ったのだろうか。
あいつ優しいから、そういうことはさらっとやりそうだもんな。
容易に想像できることだが、晃夜が自分以外にも優しい気配りを発揮するのが、なんだか面白くなかった。
楽しそうに笑ってんな……。柊崎は俺のお守り役じゃないのかよ。なんで、俺じゃなくてそいつの面倒見てんだよ。
晃夜の意志ではなく仕事なのだから、しかたがない。そんなことは重々承知だ。でも、なんだかムカついてしかたがなかった。グッと胃の奥が重くなり、手を当てた。二人を見ていられなくて、眞昼は「よそ見してる場合じゃないだろ」と小さく呟いた。
「保高くんごめんごめん、喫煙ブースでつい課長と話し込んじゃって」
川村が、パーテーション内へ入ってきた。二つの紙コップを手に持ち、一つを眞昼に渡してくれた。
「ありがとうございます」
「ん? どうしたの、胃でも痛い?」
無意識に、胃に手を当てていたらしい。
「あ、いえ。なんでもないです」
「そ? なら、始めようか」
「はい」
さりげなく視線を戻すと、晃夜と男性の姿は消えていた。既にオフィスを出たようだ。
部屋の気温が下がったような気がして、温かいコーヒーを一口すすった。いつも晃夜が入れてくれるコーヒーと違い、やけに苦く感じた。
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