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四十分ほどで、本日の業務は終了した。川村は程よく力を抜いて仕事をするタイプらしく、あちこちに「適当」感が漂った。晃夜だったら、これに一時間半はかけたかもしれない。
今日一日、川村と晃夜と比べてしまっていた。そりゃ、川村の方が晃夜より先輩だし、仕事は早いほうがいいのだが、なんというか、川村はいちいち「軽い」のだ。
そんな風に、入社したばかりの新人に思われているとは知らない川村は、早めに仕事が終わって嬉しいのか、鼻歌まじりでにこにこしている。
「なーんか、淋しそうだねえ、保高くん。まさに親鳥に置いて行かれたヒナって感じで」
パーテーションを抜けながら川村が言った。
「えっ」
「そんなに柊崎くんがよかった?」
「……何、言ってるんですか、そんなことない、ですよ」
「えーー……?」
この人鈍そうに見えて、実は鋭いのか? もしかして俺、口に出してた?
それはさすがにないだろうけど、眞昼は川村に見抜かれていたことに動揺しつつ、自分のデスクへ鞄を取りに行った。
誰もいないオフィスは、半分照明が消されている。社長が掲げた方針で、役職関係なく「定時過ぎたら速やかに退社」を推奨しているらしい。サービス残業は皆無だ。
「ねえ保高くん、この後飯食いに行かない? デートの予定が入ってなければだけど」
一瞬晃夜の顔が浮かんだが、正直に答える。
「えと、予定は、ないので大丈夫ですよ」
「よし! じゃ、行こう行こうー」
仕事中とは打って変わって生き生きとした川村に驚きつつも、眞昼は彼の後についていく。
川村は眞昼の身体を嬉しそうにエレベーターへ押し込んだ。
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