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「そ、それにしても、業務担当の川村主任が営業もこなすなんて、驚きました」
話題を変えたかったというのもあるが、素直に疑問だった。
「この会社って、何でもアリだから。ほら、社長が変わり者でしょ。でも本音じゃ、俺は内勤の方が向いてるし好きかな」
「そうですか? 川村さん明るいし人当たり柔らかそうだから、営業向いてそうですけど」
正直に感じたままを言った。
「えっ、そーお?」
「はい。――あ、ド新人のくせに、生意気なこと言ってすいません」
「いやいや、保高くんにそう言ってもらえると嬉しいなあー」
川村は照れているのか、頭の後ろに手を回した。
入社して数ヶ月過ぎていた。
眞昼は晃夜について行くのに必死で、けれど慣れてきたら思いのほか営業が楽しくて、自分の役割について疑問を抱いた事はなかった。慣れないスーツに初めての仕事。最初の一週間は体も頭もガチガチに緊張していて、毎晩泥のように眠った。
それが、二週間、三週間、一ヶ月過ぎると、出来ることが増えていった。それでも、晃夜がいなかったら、途中で挫折していたかもしれない。
「保高くん、目の前に俺がいるのに、なーんか上の空だなあ。――もしかして、別のこと考えてた?」
「いや、はは……」
「あ、否定しないんだー」
本当に軽い人だが、この人が自分の兄である可能性がないとは言い切れないのだ。眞昼は。一縷の望みをかけて、質問を投げかけた。
「あの、川村主任は面倒見がよさそうですよね。もしかして、下に弟や妹がいるんですか?」
「ん? 俺? 姉と妹に挟まれてるよ。妹とは年子だから、今じゃあっちが姉みたいだよ」
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