2 既視感

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2 既視感

 事務所での精算業務終了後は店内へ戻り、次は商品の発注だ。ヘルプで呼ばれれば、端末をたすき掛けにしてレジにも入る。  店内通路を進むと、ちょうど、スーツ姿の若い男性が入ってきたところだった。「いらっしゃいませ」と声をかけ、防犯意識からさりげなく男の顔に視線をずらす。    その瞬間、軽い既視感がよぎり、すれ違いざまに振り返った。同時に爽やかな香りが鼻先をかすめた。  男性は店内を眺めるようにゆっくり歩いている。    万引き防止のためにも客の目を見て挨拶するのが課せられているルールだし、怪しい人物を見かけたなら注意深く観察するよう、オーナーや店長から常日頃言われている。  しかし男性は仕立てのよさそうなスーツを着用しており、間違っても万引きを実行する輩には見えない。    先ほどは横顔しか見えなかった男性がこちらを向いた。  きっとイケメンに違いないと予想していたが、実際はそれ以上だった。と同時に、眞昼の胸に、なんとも懐かしいような切ないような、説明のつかない感情がぐっとこみ上げた。  ――ん? なんだ? この感じ。……やっぱ昔の知り合い?  手元では発注用の端末を操作しながら、眞昼は首をひねる。男性の年齢は二十一歳の眞昼と同年代に見えるが、ファッションや流行に疎い眞昼から見ても、規格外の高級スーツなのは一目瞭然だった。  ――高校? いや……もしかして中学か?  しかし、同年代で高級スーツを身にまとうような人間が、過去に自分の身近にいたかどうか確信が持てない。      
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