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「俺も川村さんも男ですけど」
「も~、だからね、俺は男とか女とか関係なく恋愛できるの。半年前に別れたのは彼女だけど、その前に長く付き合ったのは年下の彼氏だったし」
「彼氏……」
「保高くん、柊崎くんを見る目が完全にハートになってるの、自分で気付いてなかった?」
「へっ」
「恋愛の意味で好きなんでしょ、柊崎くんが」
――俺が、柊崎を好き? だって、仕事の先輩で元同級生で、あいつは優しくていいやつだから好きに決まってる。でも……俺の目がハート? え、うそ、俺の目そんなんだった? いつ俺がそんな目であいつを見たんだよ、そんなバカな。レンアイの意味ってなんだよ、恋愛……柊崎が俺の……?
ちゃぷん、と音がした。アルコールが耳の中で波打っている。
今日は晃夜と話せなくて、つまらなかった。
晃夜の後ろを歩く社員候補の男性。晃夜が男性に話しかけ、男性は真剣な面持ちでそれに応えていた。けれど、時折雑談していて、その瞬間だけ男性はリラックスした表情を見せていた。晃夜も、優しげな視線を彼に向けていた。
――あ、また……
胸が苦しい。あの二人を見たときも、胸が詰まるように苦しくなった。
アルコールが頭の中を回っている。まるで水の中に潜ったみたいだ。居酒屋内の猥雑な音や声が、どんどん遠ざかっていく。
突然、ガタン! と何かが倒れるような大きな音がして、驚いて動けなくなった。
「わっ! ちょっと、大丈夫? 保高くん!」
視界から川村が消え、代わりに和風の木枠に囲まれ並んだ黄色い白熱灯が見えた。
なんで俺の身体、天井向いてるんだ?
眞昼が椅子ごと転倒したからだった。
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