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一瞬、間があった。ため息も聞こえる。
「柊崎?」
『……ばか。笑い事じゃないぞ、痛めたのは手首だけか? 他は?』
「他は平気、なんともない。大丈夫だよ」
呆れられたのかと思ったけれど、さっきのは心配のため息らしい。眞昼は、無意識に痛めた左手をそっと胸に当てた。
『そっか、よかった。とりあず、今夜と明日の朝、氷水で繰り返し冷やせ。手にビニールでも被せて、風呂で温めないように気をつけろ。明日、外回りの前に整形外科行って来い。川村主任が知ってるから訊くといい』
「わかった、そうする……ありがと」
また、小さなため息が聞こえた。
『フラフラ歩いて、また転ぶと危ないから、もう切るぞ』
「そんなわけ――あっ、待って!」
『何?』
「えっと……まだ話したいから、家に着いたらかけなおしてもいい?」
日中、晃夜と話せなかったから、まだ声を聞いていたかった。言ってみたものの、やけに照れくさくてカーッと耳か熱くなった。
『――いいけど』
「えっ、いいの?」
『もう、後は寝るだけだったし』
「よし、じゃ、ちょっと待ってて」
『慌てなくていいぞ』
「うん!」
眞昼は小走りで自宅マンションへ急いだ。手首の痛みが小さくなった気がした。
無事自室へ帰宅した眞昼は、ネクタイを外し手と顔を洗った後、晃夜に電話をした。先に報告の意味で仕事の話を十分ほどする。その間に晃夜の指示通り、冷蔵庫から保冷剤を数個引っ張り出して手首に当てた。
『電話切ったら氷水につけろよ』
「わかってるよ」
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