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ついクスッと笑ってしまうと、『笑いごとじゃないぞ』と、低い声が聞こえた。
「あ、ごめん、だって柊崎、俺のお父さんみたいなんだもん」
『――は? こんなピチピチのイケメンつかまえてお父さん、だと?』
「うわ、イケメンの自覚ありかよ」
『冗談に決まってんだろ、間に受けるなよ』
「別にいいじゃん、実際おまえイケメンなんだし」
『……』
「柊崎?」
『――あ、いや、保高の部屋は毎日寄ってたから、ずいぶん行ってないような気がしてさ。まだ三日くらいなのに変だよな。お前、ちゃんと飯食ってるか?』
「うん、なるべく自炊するようにしてるから大丈夫。柊崎の方が忙しくて大変だろ」
新人くんの面倒とか、とは何となく言えなかった。
『明日はデスクワークに集中したいから、社内にいる時間は長くなる予定だ。久しぶりに顔見て話せるかもな。ただ、明後日から出張だから、当分お前の部屋には行けそうもない』
「出張……って、どのくらい」
『予定は一週間だけど、延びる可能性はある。インドネシアだから』
「インドネシア? えっ、海外ってこと?」
『うん』
海外ってことは、その間柊崎は日本にいないってことか……。
転勤ではなく出張なのだから、そんなに驚く話ではない。なのに、この衝撃はなんなのか。
「そ、そっか。気をつけて行ってこいよ」
言葉と感情がまるで違う。電話でよかった。きっと自分の顔は泣きそうに歪んでる。
『ああ、とにかく、明日は会えそうだから。いいか、冷やすのだけは忘れるなよ。おやすみ』
「……おやすみ」
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