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8 恋慕事
翌日、珍しくアラームが鳴る前に目を覚ました眞昼は、通常よりも十分ほど早く出社した。
夕べ晃夜に言われた通り、朝も朝食を摂りながら手首を冷やした。できれば湿布を貼るなり包帯で固定するなりしたいところだが、あいにく自宅に気の効いた物は置いていない。だから、なるべく動かさないよう注意した。
職場のビルへ到着すると、ピカピカの通路を進んだ。(初めて来たときは、立派な建物の迫力に圧倒されて挙動不審気味に歩いた)けれど、それは数ヶ月前のことだ。
現在の眞昼は、煌びやかな受付嬢の女性達にも、自然な笑顔を向けられるようになっている。そう自負しながら、オフィスに入った。
「腕、見せてみろ」
目の前に晃夜が立っていた。
「えっ」
朝から会えるとは思っていなかったから、驚いてすぐに言葉が出てこなかった。やっと晃夜の顔をちゃんと見られた気がして、安堵した。同時に、やっぱり自分は淋しかったんだと実感した。
無造作にセットされた黒い髪にすっと通った鼻筋。晃夜の視線は真っ直ぐ眞昼の左腕に注がれた。長いまつ毛が影を落とし、何ともいえない色気を朝っぱらから放っている。
なんか、やけにキラキラして見えるな……。
晃夜は眞昼の左腕に手を伸ばすと、そっと袖口をめくった。途端に眞昼の鼓動が早くなった。
「腫れてはいないようだな。俺の言った通りに冷やしたか?」
「あ、うん。夕べと今朝、何度も冷やしたよ。おかげで痛みはひいた」
「そうか……よかった」
眞昼の手首に、晃夜の手が軽く触れる。その瞬間、眞昼の体が過剰に反応した。反射的に、手を引っ込めてしまったのだ。
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