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けれど、やっぱり晃夜と一緒がいいと、時折思ってしまう。
入社したばかりで、まだまだ仕事のことはわからないくせに何を勝手なことを、と言われそうなのは重々承知だ。それでも、川村といることを忘れて晃夜の名前を呼びそうになったことが何度あっただろうか。
それだけ、眞昼の中で晃夜の存在が大きくなっていた。
「五時二十五分か。んー、ちょっと早いけど、保高くん、直帰にしちゃって飲みに行かない?」
高速のエレベーターを降り、クライアントのビルから出ると、西日が顔を直撃した。強い日差しを物ともせず、川村が全開の笑顔を向けてきた。
「今夜はやめておきます。――俺、コレなもんで」
左腕を西日にかざすと、さすがの川村も半笑いになった。
「あははー、だよねー。アルコールはよくないよねー。じゃ、完治したら改めて誘うから、ヨロシク」
「はい。お疲れ様でした」
駅に向かって歩き始めた川村が、「次回までに」と、振り返った。
「いい返事、用意しといてよ」
それだけ言うと、川村はひょろりと長い背中を向け、さっさと駅の方へ歩いて行った。
「返事……」
果たして川村が本気なのかどうか微妙だが、眞昼が自分の気持ちに気づいたのは、川村がきっかけだと伝えたら驚くだろうか。
俺は、柊崎が好きなんだ。そういう意味で好きだ。
居酒屋で川村に指摘されたとき、驚きすぎて椅子から落ちたのに、自覚したら取り乱すことなく意外に冷静な自分がいた。
なのに、実際晃夜を前にしたらテンパってしまった。
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