9 心の距離

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 晃夜の部屋の対極にリビング、そして西側に廊下がある。奥に見えるドアが祖母の部屋らしい。この距離なら、部屋で音楽を聴いても同居人に迷惑がかからないだろう。  晃夜は「先に入って座ってて」と、キッチンらしき場所へ消えた。眞昼はドキドキしながら、晃夜の部屋へ入った。  最初に目に飛び込んできたのは、オレンジ色のストライプのカーテンだった。勝手にモノトーンのシンプルなインテリアを想像していたが、家具は全てナチュラル素材の温かみのあるデザインだ。  ベッドカバーはグリーンのデザインプリント。クッションはイエローと、ビタミンカラーで統一されている。この部屋で数時間過ごすだけで、元気になれそうな気がする。  意外なようでいて、実はぴったりなのかも。  眞昼はドキドキしながらベッドに腰掛けた。中学時代の記憶が乏しいのだから、晃夜の情報はこの三ヶ月で修得してきた。  しかし、まだまだ晃夜のことで思い出せていないエピソードは沢山あるはずだ。何かヒントになるものはないだろうかと、眞昼は室内を観察した。  ベッドの隅に、頑丈そうなスーツケースが鎮座していた。海外出張で、晃夜にはしばらく会えなくなる。  胸元が薄ら寒いような気がして、ため息と同時にクッションを抱きしめた。晃夜の顔を見て、眞昼は再確認していた。やっぱり晃夜が好きだ。 「家探ししてないだろうな」  湯気の立ち昇るマグカップを二つ手にし、晃夜が部屋に入ってきた。 「そっ、そんなことするかよ」  軽い緊張を感じながら、クッションを抱きしめる腕に力が入る。楕円形のローテーブルに置いたカップから、甘い香りが漂った。
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