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「ココア?」
「正解」
晃夜はじっと眞昼を見た。視線の先はクッションに注がれている。無意識にクッションをきつく抱き締めたままだったのを思い出す。
「あ、ごめんな、勝手に」
急いでクッションを解放し、しわを伸ばした。
「いや、べつに全然、いいけど……」
こんなに歯切れの悪い晃夜は珍しかった。晃夜は小さく咳払いすると、眞昼の隣二十センチほど空け、ベッドに寄りかかるように座った。
「いいコーヒー豆があったんだけど、この時間にカフェイン摂ると眠れなくなるからな。それで保高、整形外科行けたのか?」
「うん。行ってきたよ」
眞昼が手首の包帯を見せると、晃夜の目は細められた。
「痛み止め貰ったけど飲まなくて済んでるよ。次の受診の予約はしたけど、多分それで終わりだと思う」
「そっか、よかった」
まるで自分のことのように安堵する晃夜に、眞昼の胸はきゅっと苦しくなる。ココアの甘い香りに包まれているから、それに引っ張られて自分の気持ちまで甘ったるくなってしまいそうで、困る。
晃夜も口元へカップを持っていった。
――あ……。
その様子を見ていたら、一瞬、懐かしい光景を見たような気がした。後もう少しで何かを思い出せそうで、思い出せない。
「保高」
その声で、現実に引き戻された。
「ん?」
「川村主任と、何かあった?」
「んぐっ」
飲み込んだ液体が変なところに入りそうになった。大げさに手を振ったので、ベッドが軋む。
「な、何かって……別に何もないよ! あ、仕事は順調だし、えっと、意外に仕事は真面目なんだね、川村さんて」
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