9 心の距離

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「ああ、まあ…基本緩いけど、やることはちゃんとやる人だな」  まさか、「付き合おう」的なことを言われたなんてことは、とても言えなかった。そんでもって、自分が川村と「同類かもしれない」ってことも。  眞昼は晃夜をそっと見つめた。  ――俺が、お前のことが好きだって言ったら、おまえだって驚いてひっくり返って捻挫するかもしれないぞ。  眞昼は、胸の中でひっそり呟いた。 「じゃあ、なんでそんな顔してんだよ」 「へ? 顔って……?」  まともに見つめ合う格好になり、眞昼はドキドキして切なくて、目が潤みそうなる。晃夜は、やや焦ったように視線を逸らせた。  いっそ自分の気持ちを正直に伝えられたら、どんなにいいだろうか。きっと晃夜なら、告白しても軽蔑したり態度を変えたりしないだろうけど。  せっかく久しぶりに(正確には五日ぶりに)二人きりになれたというのに、微妙な空気になる。眞昼は何か話題を探した。 「そ、そうだ、新人候補くん、どんな感じ?」  質問には答えないくせに、勝手に話題を変えた眞昼を晃夜はジロリと見た。 「どんなって……まあ「候補」つっても、ほとんど採用決まってるけどな」 「えっ、そうなの?」 「これも社長の方針だけど、始めは「候補」で入って、研修期間は四ヵ月。本人のやる気と根気がどれだけあるか、見極めるのが大事なんだ。だから大卒でも高卒でも関係ない。あとは、性格と社交性」  話す晃夜の横顔を、じっと見つめた。 「柊崎は、社長を尊敬してるんだね」 「まあ……。父親としてはダメダメだけど、仕事に関しては、な」
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