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ぐっと両腕をつかまれ、揺さぶられる。
「ダメだ! それだけは許さないぞ。あのオーナー夫妻は、四年間も保高の時給を上げずに、労働基準法ガン無視で毎日三~四時間ただ働きさせてたんだ。そのことを指摘したから、あっさりお前の退職を認めたんじゃないか」
突如激昂した晃夜に驚き、やっぱりそんな事情だったのかと、納得した。当時、アルバイトが足りない状態だったのに、眞昼の突然の退職をオーナーが許可したのが不思議だったからだ。
でも晃夜が眞昼のために忠告してくれたのはわかった。
「落ち着けよ柊崎、元の職場に戻る気なんかこれっぽっちもないよ。俺はまだまだ柊崎に教えて欲しいこと沢山あるし、また一緒に働けるの楽しみにしてるんだし、誤解だよ!」
「……誤解?」
体の力が抜けたのか、晃夜はハッと息を吐いて額に手を当てると、正面に向き直った。
「お前が急に変なこと言い出すから、俺はてっきり」
「誤解させてごめん。……でも俺、時給の件は知ってたよ。全部わかった上で働いてたから」
晃夜は信じられないという風に目を見開いた。
「……知ってて、言いなりになってたのか?」
話の内容が妙な方向へ逸れ始めている。
「言いなりってことはないよ。俺が、自分の意思で……」
「他のパートやバイトのケースは知らないが、あれは、保高に訴えられてもおかしくないレベルだろ!」
「いいんだよ、俺にとっては家族だったから」
あの店は個人商店で、経営は決して楽ではなかったはずだ。
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