9 心の距離

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 ぐっと両腕をつかまれ、揺さぶられる。 「ダメだ! それだけは許さないぞ。あのオーナー夫妻は、四年間も保高の時給を上げずに、労働基準法ガン無視で毎日三~四時間ただ働きさせてたんだ。そのことを指摘したから、あっさりお前の退職を認めたんじゃないか」  突如激昂した晃夜に驚き、やっぱりそんな事情だったのかと、納得した。当時、アルバイトが足りない状態だったのに、眞昼の突然の退職をオーナーが許可したのが不思議だったからだ。  でも晃夜が眞昼のために忠告してくれたのはわかった。 「落ち着けよ柊崎、元の職場に戻る気なんかこれっぽっちもないよ。俺はまだまだ柊崎に教えて欲しいこと沢山あるし、また一緒に働けるの楽しみにしてるんだし、誤解だよ!」 「……誤解?」  体の力が抜けたのか、晃夜はハッと息を吐いて額に手を当てると、正面に向き直った。 「お前が急に変なこと言い出すから、俺はてっきり」 「誤解させてごめん。……でも俺、時給の件は知ってたよ。全部わかった上で働いてたから」  晃夜は信じられないという風に目を見開いた。 「……知ってて、言いなりになってたのか?」  話の内容が妙な方向へ逸れ始めている。 「言いなりってことはないよ。俺が、自分の意思で……」 「他のパートやバイトのケースは知らないが、あれは、保高に訴えられてもおかしくないレベルだろ!」 「いいんだよ、俺にとっては家族だったから」  あの店は個人商店で、経営は決して楽ではなかったはずだ。
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