9 心の距離

9/9
前へ
/150ページ
次へ
 高校生の時にアルバイトとして雇われ、卒業しても就職せずに時給で働き続けたのは、アットホームな雰囲気が何より好きだったからだ。 「家族……?」 「そうだよ。俺、母ちゃんとの超ドライな関係に平気なふりしてたけど、本音では凄く淋しかった。いつか兄ちゃんに再会するんだって希望だけじゃ、全然足りなくて、彼女ができても満たされなかった。でも、あの店で働くようになって、店長とオーナーに可愛がってもらってさ。普通の家族ってこんな感じなのかなって、二人がホントの両親ならよかったのにって、何度も思った」  二人は事あるごとに、眞昼に詫びた。保高くんにはいつも甘えちゃってごめんねと。眞昼は、頼られることが嬉しかった。晃夜は瞬きもせずに、聞き入っている。 「お前にとっての家族……あの二人が」  ぽつりと呟いたきり、晃夜はそれ以上何も言わなかった。
/150ページ

最初のコメントを投稿しよう!

136人が本棚に入れています
本棚に追加