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しかし、眞昼の目は一箇所の文字にくぎ付けになっていた。
<あいつ一年間しかいなかったのに>
あいつって、柊崎のことだよな。 一年間……?
一瞬、何の事だ、そんなわけないだろうと思う。しかし、忘れっぽい自分も信用できなかった。その頃の記憶がすっぽり抜けているのかもしれない。眞昼はたった今メールをくれた友人に電話を入れた。
『おっ、メール送って即電話きた。元気か?』
「うん、メールありがと。あ、今電話大丈夫?」
何も考えず発信してしまい、相手の都合も考えなかった。しかし向こうはのんびり答えてくれる。
『まあ、自営業だからな俺。でどうよ、そっちは仕事とかいろいろ』
「柊崎が親身に世話してくれてさ。始めは不安だったけど、なんとかやってる。で、送ってくれたメールなんだけどさ、柊崎が一年間しかいなかったって、それって」
『ん? だってあいつ中三の頃、クラスに転入してきたじゃん。保高、覚えてねーの?』
♢
マンションのオートロックを解除してもらい、眞昼は走って一〇〇一号室へ向かう。鍵はかかっていなかった。ドアを開けると、母が待ち構えたように立っていた。
「やっと来たわね、遅いわよ」
開口一番、母は数ヶ月前と同じ台詞を吐いた。
眞昼はずっと走ってきたからまだ息が上がっている。
晃夜の過去を知るには、父親である社長に会うのが手っ取り早いと思い、母に電話をした。「社長に会って直接訊きたいことがある」と勇気を出して言ったのに、あっさりと「じゃあ、今から来なさいよ」と言われたのだ。
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